夜間、排尿のために1回以上起きなければならない症状を夜間頻尿といいます。加齢とともに頻度が高くなります。夜間頻尿は、日常⽣活において支障が出ることがあります。

40歳以上の男女で、約4,500万人が夜間1回以上排尿のために起きる夜間頻尿の症状を有し、加齢とともに頻度が高くなります。夜間の排尿回数が増えると、昼間の生活にずいぶん影響がでてきます。夜間頻尿の原因が前立腺肥大症で男性だけの問題と思われがちですが、実際は女性の患者さんも多く男女差はほとんどありません。夜間頻尿は、夜間の排尿によって慢性的な睡眠不足が起こり、日中の眠気で日常生活に多大な影響がでることがあります。高血圧お持ちの方は不眠のため血圧が上昇したりします。夜間、寝起きでトイレに行く回数が増えることは、転倒によるケガや骨折の原因となります。つまり夜間頻尿が原因で寝たきりのになる場合があると言うことになります。

夜間頻尿の原因

1、多尿・夜間多尿
多尿とは1日の尿量が多い状態のことをいいます。24時間尿量(1日尿量)が40mL/kg体重以上の場合が多尿です。主な原因は、水分過剰摂取(心因性多飲、症候性多飲)や尿崩症(ホルモン異常等により尿の産生が多くなる)や糖尿病です。夜間多尿とは夜間の尿量の多い状態をいいます。具体的には1日尿量のうち夜間就寝中の尿量が65歳以上では33%以上、若年者では20%以上となる状態です。若い人の場合は、尿は日中にほとんど作られますが、年をとり心臓や腎臓の働きが低下すると夜間に作られる尿量が多くなってしまいます。そのため夜間の尿量が多く、夜間多尿となります。高齢になると夜間の尿量を減らす抗利尿ホルモンの分泌が低下し、十分に役割を果たさなくなるのが原因のひとつです。さらに水分摂取とも関係します。水分は飲料だけではなく、食物にも多く含まれています。自分で思っている以上に過剰な水分の摂取があり、体にたまっている方もいらっしゃいます。高血圧や心臓病などのお薬が、原因で夜間多尿になる場合もあります。

2、膀胱容量の減少
膀胱容量の減少は、少量の尿しか膀胱に貯められなくなるもので、膀胱が過敏になるために起こります。一般的には、昼にも頻尿になることが多いです。
①過活動膀胱
膀胱に尿が少量しか溜まっていないのにも関わらず尿意を感じてしまったり、膀胱が勝手に収縮してしまう病気で、トイレに急いで駆け込む症状(尿意切迫感)があるものです。脳卒中、パーキンソン病などの脳や脊髄(せきずい)の病気で引き起こされる場合もあります。
②前立腺肥大症
男性特有の疾患で、前立腺が大きくなることで排尿がしにくくなり、結果として膀胱が過敏になることがあります。
③その他
間質性膀胱炎や骨盤臓器脱などで夜間頻尿になることがあります。

3、睡眠障害
眠りが浅く、ちょっとしたことで目が覚めてしまいます。外来の診察ではトイレに行きたくて起きるのか、目が覚めるからトイレに行くのか、わからない人も多く見受けます。また、睡眠障害にはうつ病や不眠症などの精神的な病気以外に、睡眠時無呼吸症候群や、むずむず足症候群等の多くの病気が関連している場合もあります。

診断

夜間頻尿の検査は問診や身体診察、検尿、採血、排尿日誌、尿流測定、残尿測定があります。
夜間頻尿や排尿の状態についていつぐらいから始まり、どうなったのか。またどれくらい困っているのかをお伺いします。さらに睡眠の状態についてもお尋ねします。そのうえで先に述べた夜間頻尿になりやすい疾患がないか、病歴を確認します。他には水分摂取量、アルコール、カフェイン飲料を含めた生活様式もお伺いします。内服薬についてもお伺いします。さらに身体診察では足がむくん(浮腫)でないか確認します。おしっこの検査をして尿路感染症、膀胱がん、尿路結石がないか鑑別する目的で行います。ここで、これらの疾患が見つかる場合にはそちらの検査治療を優先します。採血で腎機能の確認のための血清クレアチニンや通常の電解質はもちろんのこと、心不全を疑う場合にはBNP(脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド)や、男性では中年以上で前立腺がんの腫瘍マーカーのPSA(前立腺特異抗原)を測定します。

治療

生活指導
まずは飲水指導です。夜間の過度な飲水、アルコール、カフェイン摂取は夜間多尿のリスク因子です。次は塩分制限です。塩分の方は血圧をあげ、さらに体内に水分を貯めてしまいます。減塩に努めましょう。厚生労働省推奨の日本人の食事摂取基準(2020 年版)は男性7.5g、女性6.5g、高血圧及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的とした量として、6g/日未満となっています。運動療法も効果的です。夕方から夜間における運動は、筋肉のポンプ機能で体に貯まった余計な水を血管に戻す作用があり、さらに、汗で水分量を減らします。またストレス解消で睡眠障害にも効果があります。次は禁煙です。糖尿病の日本人患者において、喫煙している人は重度の夜間頻尿があったという報告もあります。タバコは万病のもとです。ぜひ禁煙してください。他に、足をあげての短時間(30分以内)の昼寝、日光浴、弾性ストッキングの使用、利尿薬の服用時間を昼にするなども有効と言われています。

薬物療法
薬物療法は夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害のおのおので治療薬があります。まずは夜間多尿です。夜間多尿に対しては腎臓での尿量を低下させる、つまり尿を作るのを妨害するデスモプレシンがあります。利尿薬も有効と言われています。寝る6~8時間以上前に飲むようにしてください。男性で前立腺肥大症に伴う夜間頻尿、特に夜間多尿がある人にはα₁アドレナリン受容体遮断薬が第1選択となっています。つぎは膀胱蓄尿障害です。過活動膀胱に伴う夜間頻尿は抗コリン薬が有効です。β₃アドレナリン受容体作動薬も過活動膀胱に効果があるため使用しています。前立腺肥大症にともなう夜間頻尿では夜間多尿の部位でも触れたとおり、α₁アドレナリン受容体遮断薬は一定の効果を期待できます。また、他の前立腺肥大の治療も効果があると思われ併用することがあります。最後に睡眠障害についてですが、これについては安易に睡眠薬と言いたいのですが、睡眠薬にも寝入りが悪いもの、途中で起きてしまうもの、早く起きてしまうもののそれぞれに治療薬があり、詳細な話を聞いて処方をする必要があります。また高齢者では副作用が強くなることもあるので注意が必要です。