高血圧は、喫煙と並んで、日本人の生活習慣病に最も大きく影響する要因です。もし高血圧が完全に予防できれば年間10万人以上の人が死亡せずにすむと推計されています。高血圧自体は、過去数十年で大きく減少しましたが今なお20歳以上の国民二人に一人は高血圧です。

高血圧の診断と治療

1、日本における高血圧患者の現状

高血圧症は脳心血管(脳卒中および心疾患)の最大の危険因子です。脳心血管病による死亡率は、低下傾向にあるとはいえ、高齢者において、癌とほぼ同程度の死亡原因になっていて、血圧の十分なコントロールはとても重要です。
わが国の高血圧患者数は4300万人と推定されていて、高血圧自体は自覚症状はないものの、他の重大な疾患を引き起こすことが知られています。

2、高血圧の診断

日本高血圧学会の高血圧診断基準では、診察室での収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断しています。また自宅で測る家庭血圧の場合は、診察室よりも5mmHg低い基準が用いられます。

3、治療

基本は他の生活習慣病と同じく食事療法・運動療法です。それらを行いながら内服薬でコントロールします。食事療法で大切なのは塩分を減らす。1日6g未満にすることで血圧は5mmHg程度下がると言われています。運動療法も2-5mmHgの低下が期待されると報告されています。治療を継続するにはコスト抑えること、患者様としっかり相談することが大切です。

1.生活習慣の改善

     

 まず、生活習慣ですが、6つの項目があります。一つ一つについてこれからご説明します。これらは、血圧のためだけでなく、糖尿病や心臓病、脳梗塞など全ての生活習慣病にとって同じ問題点であり、気をつけることであることを理解してください。元気で長生きのためにはこれらを修正実行する必要があるということです。日本人の塩分摂取量は昔は20g程度あり、脳卒中が今の10倍ほどありました。これではいけないということで国の指導により食塩を減らすようになりました。塩分制限は日に6g程度を目標にします。塩分制限はカロリー制限に繋がりますので肥満の解消にも重要です。現在、標準体重は22×身長(m)の2乗で計算します。様々な研究結果から22という数字は病気になる確立が最も低いということで導き出された数値です。標準体重の20%以上オーバーの場合を肥満と言いますが、超えていないからと言ってOKというわけではありません。最近よくい言われる脂肪のつき方によっては標準体重近くの人でも危険な場合があるからです。いわゆる内臓に脂肪がついた人の場合は、やはり食事や運動療法が必要であると考えてください。最近よくアルコールは心臓病にとって予防的に働くと言われております。一方量が多くなると脳卒中が増えるというデータもあります。一回の飲酒は短時間血圧を下げるようですが、多量飲酒は血圧を上げるらしく、返って血管病を増やしてしまうようです。また、飲酒が多いと食事療法がおろそかになって体重コントロールができず、血圧を上げてしまうことも多くあります。適切なアルコール量は日本酒で1合、ビールでは500cc以下と言われております。一般的に運動する人よりしない人の方が血圧は高いです。また、運動療法には血圧を下げる効果があることはよくわかっています。運動の種類としては静的な運動と言われる筋肉トレーニングは良くなく、動的運動である歩行、ランニング、水泳が良いとされています。また、運動は軽めの方がよく、強い運動は静的運動と同じことですが、急に血圧を上げてしまって事故が起こりやすいと言われています。もちろん、こうした運動は継続が大事であり、できれば毎日続けることが重要です。タバコについては血圧との直接的な関連はありません。しかし、何よりタバコは動脈硬化の最も強力な危険因子であることは間違いありません。血圧をコントロールする意味はあくまで動脈硬化の予防ですから、いくら血圧に気をつけてもタバコを吸っていては意味がないといえます。ストレスというと、いわゆる精神的なものを想像される方が多いと思いますが、精神的ストレスは血圧との関連ははっきりとは証明されていません。ただし、動脈硬化との関連は言われているので、やはりなるべく避けるべきものでしょう。また、寒冷は血圧を上げると言われており、特に高血圧患者様において冬の温度の変化は危険と言われています。トイレや浴室の寒さは注意が必要です。

2.薬物療法

以下のような薬を状態によって使い分けします。

Ca拮抗薬
カルシウムには、血管壁の内側に入り込み、血管を収縮させる作用がありますが、カルシウム拮抗薬は、カルシウムが血管壁に入り込むのを防ぎます。副作用は、顔の紅潮、動悸、頭痛、ほてり、めまいなどです。むくみ、便秘、歯周病なども起こりえます。服用中はグレープフルーツジュースを飲んではいけません。グレープフルーツに含まれる成分が薬と反応し、血圧を過度に低下させるからです。

ARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
アンジオテンシンⅡとは体内で作られるホルモンの一種で、血管を収縮させ、血圧を上げる働きがあります。また、アルドステロンという血圧を上げるホルモンの分泌も促します。ARBは、そのアンジオテンシンⅡの働きを抑えます。副作用は、動悸、めまい、頭の重い感じなどです。腎機能が低下している人は、高カリウム血症を招く恐れがあるので、服用に充分な注意が必要です。また、胎児に重度の腎不全を引き起こす恐れがあり、妊娠中や妊娠の可能性のある女性には使えません。

ACE阻害剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)
ACEとは体内にある酵素の一種で、アンジオテンシンI[ワン]というホルモンをアンジオテンシンⅡに作り変える働きをします。ACE阻害薬は、そのACEの働きを抑え、アンジオテンシンⅡを作り出しにくくします。副作用は、痰[たん]を伴わない空咳[からせき]などです。
レニン阻害剤
レニンとは腎臓から分泌される酵素の一種で、アンジオテンシンⅡを作るのに欠かせない物質です(図3)。レニン阻害薬は、そのレニンの活性を抑え、アンジオテンシンⅡを作り出しにくくします。副作用は、頭痛や下痢などです。

β遮断薬
交感神経が活性化すると、心臓も活発に動くようになり、送り出す血液量も増えて、血圧が上がりますが、その交感神経の興奮を心筋(心臓の筋肉)や血管に伝えるには、ノルアドレナリンというホルモンが、心筋や血管にあるβ受容体というものと結合しなければなりません。β遮断薬は、そのβ受容体と結合し、ノルアドレナリンとβ受容体が結合できなくすることで、交感神経の興奮を遮断します。副作用は徐脈(心拍数が通常より少ない状態)です。気管支の拡張しにくさ、むくみ、だるさ、こむら返り、冷え、不眠なども起こりえます。喘息の人は服用してはいけません。

利尿剤
利尿薬は、余分な水分や塩分(ナトリウム)を腎臓から排出しやすくします。こうすると血液量が減り、血圧が下がります。ただし、発汗が多いときは脱水に気をつけ、適度な水分補給を心がけてください。副作用は、低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症などです。動悸、頭痛、ほてり、むくみ、便秘、歯周病なども起こりえます。痛風の人は服用してはいけません。